Fukuoka



by Ry Beville

福岡はいつもエネルギーに溢れている、とても魅力的な街だ。この街には現在3つのブルワリーがあるが、福岡市から電車ですぐの北九州市門司にもブルワリーがある。とはいえ、福岡市周辺のクラフトビア・シーンが活気づいてきたのは実はここ最近のことである。

日本の他の大都市圏の動きと比べるとやや後れをとった感はあるが、九州最大の都市であり、アジアで最も活気溢れる都市といっていい福岡市は今まさにクラフトビア・ブームに火が付きつつある。クラフトビア・バーが次々に新規オープンし、元々クラフトビアを扱っていなかったバーも新たにクラフトビアに力を入れる動きを見せている。こうした新しい動きについてはよく人々の話題にも上っているようだ。ビアフェスの動きも勢いを増してきているし、意外な店でクラフトビアのボトルを見掛けるようになってきた。このように、新しい動きがどんどん出てきている福岡の街を読者の皆さんも是非訪れて、その活気を肌で感じてみて欲しい。

福岡のクラフトビアの盛り上がりについて、僕には特別な想いがある。僕のクラフトビアとの関わりが福岡で始まったこと、そして本誌のルーツもこの地にあることがその理由だ。1997年、僕の日本での初めての職場は福岡の「こくさいひろば」というところで、ここでバイリンガル雑誌の発行に携わったことがその後僕が出版業を始めるきっかけとなった。そして、職場が入ったビルから通りを渡ったところにあった博多城山ホテルはホテル内にブルワリーがあり、そこでつくられたビールを飲んだのが僕の日本のクラフトビア初体験となった。爽やかな風味で美味しいビールだった。博多城山ホテルは今から10年くらい前に廃業してしまったが、鹿児島の城山観光ホテルにブルワリーを移設し、ここで今でも美味しいクラフトビアを造っている。博多城山ホテルから歩いて数分のところにはビアレストランCotton Fieldsがあり、当時最大で600種類もの世界のビールを置いていた。僕は福岡に5年間いたが、その間にこの店で何百種類というビールを飲んだと思う。当時Cotton Fieldsのバーテンダーは僕が知らないビールの中で好きそうなものを色々と紹介してくれたものだ。僕が福岡を離れてもう10年以上になるが、その後も事ある毎に福岡を訪れているし、特に夏場は長期滞在することも多い。福岡に帰る度に美味しいビールとの出会いを求めて色々な銘柄を飲んで楽しんでいる。

福岡ではクラフトビアの爆発的流行という現象は見られず、あくまでもゆっくり、じわじわと浸透してきている感じだ。そんな中、福岡市内にあるケイズブルーイングカンパニーの加藤秀則もクラフトビアの着実な普及に貢献している一人。彼と初めて会ったのは福岡市内のCraic & Porter(クラック&ポーター)というクラフトビア・バーだったが、このバーのオーナーはマイクという名のクレージーな男で、福岡でクラフトビアを樽生で初めて提供した人物だと思われる。その後の福岡訪問時にはCotton Fieldsで働いていたケンジを誘って、加藤の小さなブルワリーを訪ねたものだ。加藤が経営する会社はケイズブルーイングカンパニーが正式名称であるが、彼がつくるビールの中でも主力商品となっているペールエールの名称にもなっている「ブルーマスター」という名前で一般に知られている。加藤がアメリカのクラフトビアの美味しさに衝撃を受けて努力の末ブルワリーを創設したのは2002年で、それ以来真剣にビールづくりに励む同社の顔となっている。加藤は特にデパートへの販促に成功し、カボス(柑橘系の果実)や、あまおう(福岡のブランドイチゴ)といった地場産品を使ったビールも好評だ。フルーティーな風味を好まないビールおたくもいるだろうが、爽やかで飲みやすいタイプを好むファンには好評だ。昨年日本で開催されたビールとフードのペアリング・イベント、ルボーマリアージュLe Beau Mariageでは、チャーリー・パパジアン(米国ブルワーズ協会会長)とキース・ヴィラ(ブルームーン醸造長)両氏が「かぼす&ハニー」を評し、シャンパンを思わせるこのエールはブランチに合いそうだ、と言っていた。加藤は昨年の九州ビアフェスタにも参加、イベントは盛況で、クラフトビア導入を検討しているバー・オーナーたちの注目を集めていた。

九州ビアフェスタは去年までは大型商業施設「博多リバレイン」内の美しいアトリウムガーデンで開催され(今年は11/16~11/17の二日間、JR博多シティ9階JR九州ホールで開催予定)、隣接するホテルオークラには地下レストラン内にブルワリーがある。ここで長く(P.35へ続く)

ブルワーを務めていた渡辺が実は九州ビアフェスタの元々の仕掛け人で、これまでオークラブルワリーでつくられるクラフトビアの品質向上、ラインナップの強化に貢献してきた。彼がつくるラオホスタイルのビールは特に素晴らしかった。渡辺は現在ブルワリーを離れ、ホテル内の別の部署に移っているが、彼が同ブルワリーに遺したものは今も確実に受け継がれていることだろう。

次に紹介するブルワリーは福岡市の中心部からはかなり離れた田舎にある「杉能舎」(すぎのや)。福岡市の西方に位置し、綺麗なビーチも近く、周辺は小さな農家がたくさんあるようなエリア。辺ぴなところにあるブルワリーということで、ビール好きな見学者向け、あるいは地元住民向けと言えるかもしれない。ここのビールはビアフェスでもビアバーでもあまり見掛けない。ちょっとした旅行感覚で訪問してみよう。わざわざ行く価値があることは保証する。ビールだけではなく美味しい清酒もつくっているということも杉能舎の大きな魅力。ここは歴史ある酒蔵なのだ。杉能舎のペールエールはここのブルワーがカナダのブルワリーで1年間修業したときに学んだレシピが元になっているという。その他に、ホップを効かせたアンバーエール、ハニーモルトを使ってやや甘めに仕上げたスタウトもある。

せっかく福岡に来たなら門司港地ビール工房も外すわけにはいかない。ここのクラフトビアは素晴らしい割にまだ正当な評価を受けていない感があるし、併設のブルーパブ・レストランから眺める門司港の景色も素晴らしい。博多駅から普通電車で1時間半、新幹線と在来線の乗り継ぎなら30分という距離だから、福岡に泊って門司まで往復しても福岡の賑やかな街で夜遊びする時間は充分確保できるだろう。

福岡はワクワクする楽しさが溢れる街。市の中心部には美味しい料理を提供する魅力的な飲食店がひしめいている。福岡市に本社があり全国的に有名なラーメンチェーン店「一風堂」や、たくさんの屋台も大きな魅力。クラフトビアを提供している店の中には食事もとても美味しい店があり、こういう店はとても有難いものだ。Gastropub Ales(ガストロは「美食」の意)はローカルなクラフトビアをローテーションで提供しており、タパス(小皿料理)を中心としたフード類も人気が高い。シェフをやっている友人もこの店に何人か連れていったが、皆料理の質が高いと太鼓判を押していた。

Three Kingsはいわゆるパブ・スタイルのフード類が充実している人気店だが、最近クラフトビアも置き始め、ベアードやコエドもタップで飲めるようになった。

そして福岡のクラフトビア・シーンはBeer Paddy Fukuokaの登場でまた大きく動いている。市の中心部から少し南に下った高砂というエリアに昨年、移転オープンした同店は厳選した国内のクラフトビアを中心に10数種類のタップが楽しめる。福岡でも実にいろいろなクラフトビアが楽しめるようになったものだ。さらに最近の出来事として、市の中心部である大名エリアにCraft Beer Brimが新規オープン、ここでは15種類ものタップが楽しめる。落ち着いた色調の内装に植物のグリーンが配置され、とてもリラックスした気分で飲める。これらの新しい魅力的なバーの登場により、日本のクラフトビアの美味しさと種類の豊富さが福岡の人々の間にどんどん浸透してゆくことだろう。

クラフトビアの伝道師的な役割を果たしているお店はまだまだ他にもある。大名エリアにあるMorris Innはインターナショナルな雰囲気でもうずいぶん長くやっているが、もともと有名銘柄のビールを中心に扱ってきた。しかし店長の戸高祐輔が実はクラフトビア好きでクラフトビアをボトルや樽で提供するようになった。これは上司の方針とは別個にやったことらしい。上司やオーナーの意向にかかわらずクラフトビアの普及のために気概を見せる店長クラスの人たちを応援したい。同店は市内に同様のスタイルを持つ姉妹店が二店舗あり、その一つBlack SheepはMorris Innと同じ通り沿いにあり、もう一つの姉妹店Hippoは中洲エリアにあって上述のホテルオークラやCotton Fieldsにも近い。また面白いことにHippoのすぐ右隣にはBrooklyn Parlor Hakataがあり、ここは雰囲気の良いカフェのような佇まいでブルックリン・ブルワリーの銘柄を数種類置いている。中洲エリアに来たなら老舗ビアレストランCotton Fieldsにも、もちろん立ち寄ろう。フレンドリーなオーナー諸岡が世界のビールが飲めるカントリーウェスタンスタイルの同店をオープンさせたのはバブル前夜の1980年のこと。同店が揃える多くの銘柄もビールに詳しい本誌読者にはすでにお馴染みのものが多いかもしれないが、Cotton Fieldsはやはりいつ行っても楽しい。一番多く揃えていた時は600銘柄あったというビールの種類も今は400種類程度に減らしているというが、これだけあれば中にはかなり珍しい銘柄も当然含まれている。諸岡本人はオクトーバーフェスト・ビールが好きだということだが、その一方でサミュエル・アダムスやブルックリン・ラガーも好きとのことで、これらの銘柄は同店でも以前から人気が高い。また看板メニューの一つ、メキシカンタコスはもはや伝説的な名物料理となっている。

30数年にも及ぶ同店の歴史の中にはいくつか面白いエピソードがある。その一つが「ある時オーストラリアのラグビーチームが入ってきて泥酔し、ビアマグに小便をし始めた。もちろんそのビアマグはすぐに廃棄処分した」というもの。今では笑い話になっているがその時は大騒ぎだったらしい。

中洲から橋を渡った西中洲エリアにも面白い店がいくつかある。その一つ、「好信楽」では馬肉料理とIPAのペアリングが楽しめる。オーナーシェフの成田はサンディエゴに住んでいたことがあり、そこで本物のビールの魅力を知ったという。馬刺しとIPAのペアリングは最強。是非トライして欲しい。

好信楽から歩いてちょっとのところにあるのがManu Coffee春吉店。オーナーの西岡を始め、スタッフが淹れてくれるコーヒーはもちろん最高だが、ここはRogueも置いている。また同系列のManu Coffee大名店はゆっくり寛いだり、二日酔いを癒すのにもってこいのロケーションと雰囲気。

天神駅から一駅行ったところ、上述のBeer Paddy Fukuoka近くにあるJ’s Pub Monkeyはフードメニューもビールも充実している。ボトルのクラフトビアが中心だが40種類前後の銘柄を置いている。

ドイツビール好きならBayernに行ってみよう。場所は市の中心部から西へ少し行ったところで、サッカーやフットボールが店のコンセプトになっており、ドイツの郷土料理や色々なドイツビールが樽生やボトルで用意されている。また店内にあるベーカリーでは自家製パンを各種販売しており、こちらの方もとても美味しいと評判だ。

福岡では初の開催となった今回のベルギービール・ウィークエンドの影響でベルギービールの人気が福岡でもさらに高まることが期待される。毎年秋には九州ビアフェスタや、オクトーバー・フェストも開催されるのでそちらも楽しみだ。

しかしそうしたこと以上に僕が楽しみにしているのは、もうすぐ新規オープンするGoodbeer Faucets Fukuoka、そして同店の登場によって福岡がさらに活気づくだろうということ。渋谷の人気店の2店舗目が、中洲を流れる那珂川沿い、キャナルシティ向かいの申し分なく素晴らしいロケーションに11月頃オープン予定なのだ。飲食店がひしめきあうエリアからやや離れた、閑静な場所が予定地ということで、他のクラフトビア・バー関係者たちは正直胸をなでおろしているかもしれないが、この新しい店の登場でまた福岡のクラフトビア・シーンが活気づくことは間違いない。僕の長年の友人で、Cotton Fieldsでもかつて働いていたケンジにもひょっとするとこの新しい店で会うことになるのかもしれない。ジャパン・ビア・タイムズ創刊以来、彼は記事の翻訳をやってくれているが、またビアレストラン業界に戻ってくるかもしれない。彼のこれまでの本誌での仕事に感謝するとともに今後の活躍にも期待したい。





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2013年秋号でお伝えした通り、2013年夏号の福岡特集で福岡市でのクラフトビールの歴史に関する重要な情報がいくつか抜け落ちておりました。この点、福岡市民の読者にご指摘を頂き確認したところ、指摘の通りであるとわかりました(何年も前のことなので忘れていたことがいくつかあったのです)。記録を正した上での記事の全容はこちらです。

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