
(Photo: hop harvest; care of Crosby Hop Farm, LLC)
本記事は、ジャパン・ビア・タイムズ第32号(2017年秋号)に掲載されました。
あなたが本稿を読んでいる今、国産の生ホップエールを飲んでいるなら、自身を数少ない幸運な人の一人であると考えてほしい。生ホップエールは日本ではかなり珍しく、そのようなビールをつくるブルワリーは尊敬に値する仕事をしている。とはいえ、今後このようなビールを見かける機会は増えていくのだろう。
フレッシュホップやハーベストエールとも呼ばれるこれらのビールは、摘まれたばかりの新鮮なホップを使ってつくられる。北半球では、ホップの収穫開始直後、晩夏から秋にかけて世に出回り始め、米国の成長著しいクラフトビール業界では、特に太平洋岸北西部といったホップ栽培地域のタップルームで、比較的容易に見かけられる。オーストラリアやニュージーランドなどの南半球では、当たり前のことだが、その種のビールの販売は6ヶ月のずれがある。
通常ブルワーは、ホップ供給業者が運営する特別な乾燥室で、かなり低い含水率まで(10%以下)乾燥させられたホップを使う。ホップ供給業者は乾燥ホップをペレット化(小粒状にすること)するか、「毬花」のままの状態で包装する。こうして加工されたホップを適切に保冷することで、ホップを将来の使用に備え保存することができる。
摘まれたばかりの新鮮なホップは水分含量が非常に高く(約80%)、品質が損なわれやすい。そういったホップは、だいたい24時間以内に使用されなければ(または必要な処理が施されなければ)、急速に劣化してしまう。腐ったホップを自分のビールに使いたいとは誰も思わないはずだ。反対に、この限られた時間帯は、ホップの天然由来の精油やその他の化合物が完全な状態であることを保証する。これらは、ブルワーがビールに味わいと香りを与えるために生かしたいと考えているものだ。フレッシュホップエールの仕上がりは、通常に加工されたホップを使ったビールとは著しく異なる。
醸造と物流の両面において、生ホップエールにはいくつか課題がある。ブルワーは醸造の際に「フォース(あるいは感覚)」を使わなければならない。大抵ホップ供給業者は、少なくとも、研究所で得られた任意のホップ畑のアルファ酸測定値「AA」を提供する。その数値はブルワーに苦味のレベルを知らせるものである。しばしば容器に、ホップに含まれる精油値の詳細な情報を記載した「作物報告」を付けることもある。しかし、新鮮なホップにそんな時間の余裕はない。ブルワーはホップそのものしか与えられない。したがって、彼らはホップを手でこすり合せ、匂いを嗅ぎ、妥当な数値を推測しなければならない。そういうわけで、生ホップエールは毎年味が違ってくるのである。これはまた、ブルワーが通常、生ホップをペールエールかIPAに使用する理由でもある。それらのスタイルは、苦味が穏やかだったり全くなかったりする他のスタイルほど、苦味の変化の影響を受けないためだ。
また、ブルワーはどの日でもこのビールをつくる準備ができていなければならない。生ホップビールづくりは、加工され醸造所の冷凍庫に保管されているホップを使う普通のビールのように、あらかじめ計画だてることができない。農家は、ホップを観察し、最高の状態に達したときに収穫を始める。ブルワーのスケジュールに合わせて最適な収穫時期を遅らせることはできない。母なる自然は誰を待つこともないのだ! ブルワーは、ホップの準備が整ったときにそれを受け入れ、約24時間以内に使う準備ができていなければならない。もちろん農家はブルワーと連絡を取り合い、彼らに収穫の状況を知らせる。ちょうど気象予報士が桜の開花予想を伝えるようなものだ。そのため、ホップの準備が整うときは、全くの推測ゲームであったり、驚きであるということはない。母なる自然が突然、収穫時期を変更することを自身に無理強いしない限りは。
新鮮で独特な香りをビールに与えるために、意図的に生ホップを使用することは極めて近代的な手法だといえる。新鮮なホップをたまたま使用することは近代以前の時代にも確かにあったとは思うが、何世紀もの間、ブルワーは基本的に乾燥ホップを使ってきた。そして、現代になってホップオタクが「ねぇ、生ホップをビールに使ったら、すごくないか?」とひらめいたというわけだ。鍵となった転機はおそらく1996年、シエラネバダが初めて生ホップを使ったエールをつくったことだろう。当時のヘッドブルワーであるスティーブ・ドレスラー(最近退職した)は、友人を通して、英国のブルワーがフェスティバルのために小規模で生ホップを使っていることを耳にしたのだという。彼らが「ハーベストエール」と呼んだその最初の仕込み分は、かなりセンセーショナルであった。毎年、シエラネバダは製造量(そしてホップの使用量)を増やしていき、また即座に他のブルワリーも後に続いた。
当時そこに身を置いていた人物が、他でもなく、ブリマーブルーイング(神奈川県川崎市)のスコット・ブリマーである。同ブルワリーの特集記事(本誌第19号参照)に詳述の通り、ブリマーはシエラネバダのバーテンダーとしてキャリアをスタートさせ、その後長い間アシスタントブルワーを務めた。
ブリマーはこう振り返る。「幸運なことに、製造の面ではブルワーとして、また提供の面ではバーテンダーとして、その熱狂ぶりを目撃することができました。バーテンダーとして働いていたとき、常連客とハーベストエールの熱狂的なファンがいつも、いつホップが届くのかと私に尋ねてきました。そして、このビールの醸造の進行具合や、いつ販売されるのかといった質問がその後に続きます。ハーベストエールの狂信者がいたのです。シエラネバダはその品質の一貫性で知られていますが、ハーベストエールは毎年少しずつ仕上がりが異なります。それが人々を興奮させたのです。私がブルワーとして初めてハーベストエールの醸造に携わったとき、ホップは日の出前に到着し、部屋はワシントン州で24時間以内に摘まれたばかりの新鮮なホップでいっぱいになりました。部屋の一方はすべてカスケードで、もう一方はセンテニアルでした。ホップをバケツに詰めるのも私の仕事でした。興奮のあまり手袋もせずに詰めていたのですが、しばらくすると、べとべとするホップ樹脂で手のひらが痛いくらいになっていました。その痛みは一日中残りましたが、それだけの価値がある仕事でした。ブルワーとして、私たちはこの生ホップを使ったビールを仕込む日をいつも、興奮と不安の気持ちで待っていました。新鮮なホップの量が増えれば増えるほど、ホップろ過器を手作業で手伝わなければならない可能性が高くなります。ホップがかなりの量あるため、ろ過器が確実に処理できるようにしなければならないのです。仕込みの日は、社内の全部門の従業員が様子を伺いにブルワリーにやってきます。振り返ると、その一員であったことはとても名誉あることでした。一生忘れることのない思い出です」
しかし、日本にも、この精神に則って生ホップビールをつくっているブルワリーがある。志賀高原ビールとベアードブルーイングだ。志賀高原は豊かなホップ畑を有しており、そこで収穫した生ホップを使ったり、すぐに使わない分は乾燥させ保存している。ベアードもブルワリー傍にホップ畑を開拓しているが、今年は山形県の栽培者からカスケードとセンテニアルホップが夜を徹して運び込まれた。これを使ったビールは2017ハーベスト山形ウェットホップエールとして10月に登場する。去年、同ブルワリーは一連の生ホップエールを製造したが、その一つに、日本の在来種である信州早生を使ったものがあった。実際、ホップ畑を耕すブルワリーは一握りで、実験的にかなりの小規模で生ホップを使うブルワリーもある。ほとんどのブルワリーはホップを育てる土地もないし、ましてや時間や人手も足りない。すでに加工されている海外のホップを業者から買うのが一般的だ。
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日本で生ホップエール普及の最大の妨げとなっているのが、独立した商業的なホップ畑が不足していることである。国内最大規模のホップ畑は大手ビール企業によって運営されていて、自社内での研究と使用が主な目的である。京都の与謝野町に数年前にできたホップ畑があり、そこで採れたホップを使ってビールはつくられているが、規模は比較的小さく、まだ軌道に乗りはじめたばかりのようだ。しかし、生ホップへの需要の高まりが、他の農家にホップ栽培に取り組んでみるよう働きかけてくれるかもしれない。
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この文脈において、キリンが興味深い開拓者の地位にあることも注目に値する。キリンは岩手県遠野市にかなり大きなホップ畑を管理していて、早くも1999年から「摘まれたばかりの新鮮なホップ」を使ったビール(「一番搾り とれたてホップ生ビール」)をつくり続けている。当時、大手ブルワリーにしては大胆で印象的な試みだった。しかし、大量の生ホップを劣化してしまう前に自社ブルワリーに運ばなくてはならないという物流面での困難を克服するために、キリンはホップを冷凍している。日本国内のクラフトブルワリーには、そういった先例にならって「フレッシュホップビール」をつくるところもあるが、醸造のときまで、摘まれたばかりの新鮮なホップを冷凍している。
こうした技術を用いるのは、キリンと一握りの国内のブルワリーだけではない。ひそかに同様のことをしているブルワリーが米国にもいくつか存在する。オレゴン州ポートランドのブレイクサイドブルーイングは、液体窒素を使って凍らせた新鮮なホップを粉々にし、その後すぐに醸造に使用するといった手法をとっている。いくつかのブルワリーはそのやり方を非難しているが、ブレイクサイド側は、これは新鮮なホップ特有の品質を生かすためだと主張する。我々が考えるに、ブルワリーはしばしば古いやり方を犠牲にして新しい技術を利用してきた。おそらく冷凍技術も単なる技術進歩に過ぎないのだろう。
しかしこれは、明らかに議論の種となっている。あなたは冷凍された野菜を「新鮮な野菜」と考えるだろうか? ほとんどの人は「ノー」と答える。そしてホップは基本的には野菜のようなものである。とはいえ、冷凍することで、摘まれたばかりの新鮮なホップの品質が損なわれるといった趣旨の研究を見たことがない。我々は、ある種の冷凍技術を用いた「新鮮なホップ」のビールが品質面で劣っていると言うつもりは毛頭ない。ここで留意すべきは、見解にばらつきがあることを認識する必要があるということだ。米国、英国、ニュージーランドやオーストラリアといった生ホップビールが珍しくないホップの栽培地域では、ブルワーや消費者のほとんどが、「生ホップ」や「摘まれたばかりのホップ」ビールは、ホップ収穫時から約24時間以内につくられたビールであると理解している。
さて、話はさらに不可解になってくる。グレートアメリカンビアフェスティバル(GABF)審査会のスタイルガイドラインは、「生ホップ」または「摘まれたばかりのホップ」エールには、乾燥ホップを使用してもよいと明言している。もしホップを乾燥させれば、生でも新鮮でもなくなる。これは意味が通らない。詳しく調べてみるまで、これは全く矛盾しているように思われた。ガイドラインによれば、ブルワリーは、生の、あるいは摘まれたばかりのホップが大部分を占めるレシピに、多少乾燥ホップを加えることができるのだという。ハイブリッドのようなものである。少数のブルワリーは実際にそうしているようだ。GABFのガイドラインはこの状況に適応できるように書かれた。問題は、使用が許される乾燥ホップの量が明確に定まっていないことである。繰り返しとなるが、圧倒的大多数のブルワリーはこういうことはしていない。しかしブレイクサイドは、これが許されるならば、摘まれた直後に冷凍されたホップも当然許されるべきだとしている。
我々は、透明性を高めることで多くの問題に対処できると考えている。ブルワリーが用いている手法や伝統が公開されれば、それらは我々にとって役に立つし、興味をそそるものだろう。そして、ビールの味の判断は消費者に委ねよう。彼らが、異なる手法でつくられたビールの味の違いが分かるかどうか、試してみるのも面白いのではないだろうか(ブルワーにとってもためになる)。もしこの案に沸き立つようであれば、それは生ホップへの需要の高まりを意味する。そして、それが独立したホップ畑の増加へとつながる。本号が出る頃には、小規模の生ホップフェスティバルが開催されているはずだ。20近くのブルワリーから摘まれたばかりの新鮮なホップを使ったビールが、日本各地の10以上のバーで提供されるだろう。飲んでみて気に入ったものがあれば、そのブルワリーを探し当て、そのビールについてもっと詳しく聞いてみよう。
(photo: processing hops; care of Crosby Hop Farm, LLC)

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