Beer Roundup (Winter 2023)

(English follows the Japanese below) “Ch-ch-ch-ch-changes (turn and face the strange)”「変化しろ(未知なものと向き合え)」― デヴィッド・ボウイ ビール業界を見渡せば、いつもなにか風変わりなことが起きている。しかし、今では普通だと思われていることでも、新しく出てきた当初は奇妙だと思われていた、ということがよくある。実験的な試みや革新的なアイデアは一風変わったものをしばしば生み出してきた。一風変わったものが生まれることはビール業界では必然だ。想像力をかき立てる面白い物語もまた、必然的に生まれる。世界を見渡し、ここ3か月間でどんな風変わりなことがあったか見てみよう。 アメリカのビジネス誌『フォーブス』は11月初め、ニューヨーク州オーバーンにあるプリズン・シティ・ブルーイングが、ビールを使った絵画の講習会を開いたことを報じた。参加者は絵の具の代わりに同ブルワリーのインペリアルスタウトを使用した。もちろん参加者たちは絵を描きながらビールも飲んだ。今回の講習会では水彩画を専門とした画家が講師を務めたが、これは日本の墨絵を連想させる。もし、この講習会をもう一歩変わったものにするとすれば、麦芽を再利用してつくった紙(実際に日本に存在する)を使用することをおすすめしたい。 昨夏には、複数の報道機関が3人の日系ブラジル人女性が経営しているブラジルのブルワリー「ジャパス・セルヴェジャリア」に関するニュースを伝えた。彼女たちはワサビやユズといった自分たちのルーツである日本の原料を使ってビールをつくっている。彼女たちは最近、ジャパス・セルヴェジャリアのビールを米国の複数の州で販売するために、ビアターナショナルと呼ばれるこちらも女性が経営する米国のブルワリーと手を組んだ。20世紀初頭に多くの日本人がブラジル(およびその他の南米諸国)へ移民した歴史は日本人とブラジル人の間でよく知られているが、米国人にとっては馴染みのない歴史である。そのため、米国の消費者が同社のビールをどう評価するかは未知数だが、筆者にとってはとても興味深いニュースである。 それでは、(デヴィッド・ボウイの歌詞にあるように)振り返って未知なものに注目してみよう。クアーズライト(本誌前号で、ビール缶の上部に取り付けて蚊をおびき寄せる同社の製品を紹介した)が今度はマニキュアを発売した。チル・ポリッシュという商品名で、このマニキュアを塗り、冷えたビールグラスを手に持つと爪の色がクアーズライトのラベルのような青色に変化するという。もちろん、冷えたビールならビールの種類に関係なく爪の色を青色に変化させるが、ビアスタイルによって提供する際の最適な温度は異なることを気に留めておきたい。そのため、液温を正確に検知できるマニキュアがあれば、そのビールに適した温度で提供されているかわかることになる。 FIFAワールドカップは多くの人々を熱狂させた。しかし、試合会場にいたビール好きの人たちはそうでもなかったかもしれない。多くの本誌読者は知っているかもしれないが、ワールドカップ開催国のカタール当局は、アルコール飲料の販売を厳しく制限した(外国人向け高級ホテルのバーや、ファンゾーンと呼ばれる特設ブースを除き、試合会場となる各スタジアムではアルコールの提供は禁止された)。いつもなにかと物議をかもすブリュードッグは、「ロスト・ラガー」(訳註:受難のラガー)というビールをリリースし、「当社はワールドカップの誇り高きアンチ・スポンサー」と公表した。さらに同社はロスト・ラガーの売上によって得られる利益はすべて「人権侵害への戦い」のために寄付するとした上で、「カタールは贈収賄によりワールドカップ開催を勝ち得た」と主張した。しかし、ブリュードッグは自社のタップルームでワールドカップの試合をストリーミング配信したため、一部で批判の声も出た。これに対し同社は、観戦を楽しむお客様(あるいはチャリティーのビールを購入するお客様)を止めることは望まなかったと反論した。 その一方で、英国の大衆紙『デイリー・メール』は、中国でワールドカップを観戦していた多くのファンのあいだで温かいビールが流行っていると報じた。常温ではなく、文字通り温められたビールである。寒い季節なので、温めたビールを好むファンもいたようだ。TikTok上では、温めたビールにさまざまな香辛料やフルーツなどを加えて楽しむ動画が共有されていた。ヨーロッパには温かいビールがあるのは知っているが、実際に流行りはしなかった。もしお酒を温めるのならば、筆者は日本酒だけにしたい。ここでは、突飛なアイデアなどは不要だ。 昨年の本コラムでは毎回、ウクライナに関するニュースを取り上げてきたが、今年も続けていく予定だ。11月の『グローバルニュース』によると、カナダのサスカチュワン州のイェウヘン・ウクライナ・フォークバレエ団が、地元のナインマイル・レガシー・ブルーイングと手を組み、現地のウクライナ難民支援を目的として、「イェウヘン・ハニー・ウィートエール」をつくった。このコラボレーションに携わった人々によれば、およそ3千人のウクライナ難民が同州に定住しており、ビールから得られた収益はすべて難民の支援に充てられるという。ちなみにイェウヘンとは、ウクライナの民話に出てくる架空の薬草の名前で、彼らの故郷を連想させるとのことだ。ナインマイル・レガシー・ブルーイングのタップルームに加え、地元の酒店でもこのビールの取り扱いをはじめる予定だ。 本誌ではこの数年のあいだに、何度かビールと運動の関係性についても触れてきた。多くのスポーツ研究所が運動後の身体をリカバリーする飲み物としてビールに注目している。ビールといってもノンアルビールや超低アルコール度数のビールのことではあるが。『トライアスロン・マガジン誌』は11月、研究者たち(研究者の身元は不明)が、ビールと運動パフォーマンスの関係性に関する複数の研究報告を分析したと伝えた。その結果は一貫してはいなかったものの、低アルコール度数(4%未満)のビールが総じて好成績だった。意外や意外(でもなく、当然の結果か)。それにしても知りたいのは、どんな運動だったのかである。ビール飲みながら走るビア・マイル、ビア・ソフトボール、ビア・ポン、ビア・リレーなどあるが……「ビール・トライアスロン」にはどんな競技が含まれるのだろうか。 変化しろ……マリファナは米国の多くの州で解禁されてきた。医療用としてだけでなく、娯楽目的の使用も含めてである。この影響はカリフォルニア州でもっとも顕著に見られる。本コラムで以前にも触れたとおり、ラグニタスなど複数のブルワリーがマリファナ入り飲料をリリースしている。昨年末にはサンフランシスコのトニーズ・ピザ・ナポリターナというピザ屋が、日本ではまずお目にかからないピザとマリファナのコンボを売り出した。ピザの価格は30ドル、窯焼きのカリフォルニアスタイルで、燻製したモッツアレラチーズ、砂糖漬けのベーコン、ミニトマト、バジル、スモーキーな火山塩が使われ、同店が特許を持つ特製スパイスで仕上げている。そしてピザとの組み合わせとして、通常15ドルするマリファナのジョイント(紙で巻いたもの)を5ドル引きで近くの薬局で買える。どうやらマリファナの持つハーブの香りが、ピザとよく合うのだという。また、先にマリファナを購入した場合は、ピザ屋でそのマリファナを見せると、ピザが5ドル値引きされる。典型的なピザとビールの組み合わせは、今やライバルに直面している。 もう一つサンフランシスコからのニュースになるが、米国のクラフトビールが誕生した場所として世界的に認知されているアンカースチーム社に30年間在籍している社員が、『The Anchor Brewing Story: America’s First Craft Brewery & San Francisco’s Original Steam Beer』というタイトルの本を出版した。著者のデヴィッド・バークハートはアンカースチームでさまざまな職種に従事したのち、2010年に同社の史学者になった。彼の著書は広範な調査研究に基づいており、クラフトビールムーブメントの産みの親とされるフリッツ・メイタグを含む数々のインタビューも含まれている。メイタグはアンカースチーム社を買収し、会社を立て直したことで知られる人物である。興味深いことに、本にはメイタグの長年の友人であったアップル社の創業者のスティーブ・ジョブズについても書かれている。また、ジョブズが初期型デスクトップパソコンと一緒に写った写真も載っている。その写真をよく見てみると、彼の傍らの床にアンカースチームのボトルが置かれている。また、1960年代を代表する女性ロック歌手、ジャニス・ジョプリンがアンカースチームの仕込みタンクの傍らに座っている素晴らしい写真も載っている。 そのほかのロック界の有名人とビールの写真と言えば…そう、デヴィッド・ボウイがビールを飲んでいるショットがいくつかあり、とくに『ジギー・スターダスト』時代の1枚は素晴らしい。ビールの明かりがあなたを安全に導きますように、そして2023年を無事に過ごせますように! “With just the beer light to guide us…”「ビールの明かりが我々を導いてくれさえすれば…」―デヴィッド・ボウイ「ジギー・スターダスト」より “Ch-ch-ch-ch-changes (turn and face the strange)” —David Bowie Everywhere you turn in…

Beer Roundup (Fall 2022)

(English follows the Japanese) 怪しげな音楽が始まり、そこにエキゾチックな鳥の声や滴る水の音、ジャングルから聞こえてきそうなざわめきが加わる。そしてナレーターの低い声が響く。「それは世界でもっとも不可思議な生き物の一つ。昼夜を問わず活動し、選り好みせず付き合う、社交的な生き物です」。やがてBGMは電車の音、大型トラックのエンジン音など、都会の喧騒に変わる。「世界中で、それは独特かつ驚異的な方法で環境に適応してきました。我々の生活に彩りを与えてくれる共生有機体。その存在が無ければ文明開化もなかったかもしれません。その生き物が、おだやかながらも世界に与えてきた影響は、生物の命をつなぐミツバチ、プランクトンやミミズなどと同等のものかもしれません」。ここで炭酸のシュワ―という音が響き、琥珀色の液体が注がれ、たっぷりの泡が載ったグラスの映像がスクリーンに映し出される。「さあ皆さん、ナショナルビアグラフィックがお届けします。『ビールの世界紀行』!」 魅惑的な探検旅行の最初の訪問先はドイツ。ビールの熱帯雨林ともいうべきこの国で、ギージンガー醸造所のブルーパブは、飲んだビールと同量のヒマワリ油でビール代を支払うことができると7月に発表した。食用油の原料は主にウクライナの農家から調達していたため、戦争により食用油が不足したのだ。もしあなたがすでにヒマワリ油をストックしているなら、これはかなりお得な買い物になるだろう。以前は、ヒマワリ油の価格がビールよりも安かったのだ。ロイター通信によると、80リットルのヒマワリ油を持ち込み、ビール数ケースと交換した幸運な常連客もいたという。 デンマークの大企業、カールスバーグは年間業績予想を上方修正した。戦争によるさまざまな混乱があるにもかかわらず、である。同社は、ウクライナにある3つの生産拠点を再びフル稼働させることができたと発表した。ウクライナの疲弊した経済も、カールスバーグの恩恵にあずかることができるだろう。 またカールスバーグは、「飲んだらボートに乗らないで」という注意書きを掲げつつ、スウェーデンに海底バーをオープンした。もし飲んでボートに乗れば事故を招き、海底に沈んでしまうかもしれない、というメッセージである。海底バーは陸上のバーそっくりに作られており、スキューバダイビングをしながら立ち寄ることもできる。同社は、ボートに乗るならノンアルコールビールを選ぶよう呼びかけている。 英国では、パブも、パブの客もずっとやきもきしている。6月には消費者物価指数が前年比9%超上昇し、過去40年で最高値となった。本誌前号で、ロンドンの一部のパブでは1パイントあたり8ポンドを上回っていると紹介したが、アメリカの民放テレビ局CNBCの8月5日付けの報道によると、1パイント当たりのコストは2008年以降70%も上昇しているという。悲しいことに、経済学者たちはインフレが10月には13%を超えるかもしれないと予測している。大麦の価格は米国での不作の影響もあり、2021年以降2倍になっていることから、ビールはとくに大きな打撃を受けている。ウクライナの農家が輸出できなくなっていることも穀物価格の高騰に拍車をかけており、肥料の価格に至っては3倍に跳ね上がっていて、エネルギー価格も上昇している。この調子では英国のパブではやがて、ビール1パイントと客のクルマ1台をトレードする事態になるかもしれない。 しかしそれもパブが生き残ってこその話。英国のパブ業界誌『モーニングアドバタイザー』の調査によると、70%以上のパブオーナーは政府からの何らかの援助がなければこの冬を乗り切れないと考えている。理由はエネルギー価格の上昇だ。実に、65%のパブオーナーが店舗の光熱費が100%高くなったと話しており、30%のパブオーナーは200%高くなったとしている。 このような状況の中、ブリュードッグはロンドンの中心部に大規模な店舗を作った。27,000平方フィート(約2,500平方メートル)という巨大な2階建ての店舗は、ロンドンのバーの中でも最大級の規模を誇り、施設内にはダックピンボウリング場、ポッドキャストスタジオ、コワーキング・スペース、会議室やカフェまで揃っている。施設内に防空壕もあるのだろうか? ウクライナのカールスバーグの工場は知りたがっているはず…… 英国ではさらに、プレミアリーグチャンピオンのマンチェスターシティーがアサヒビールと手を組み、次のサッカーシーズン中の試合でスーパードライを販売することを公表した。そして、エティハド・スタジアムのVIPシートの一部は「アサヒスーパードライ・トンネルクラブ」へと名称変更した。この新しい協力関係をアピールするため、一隻の船にビールを積み、同クラブの重鎮であるショーン・ライトフィリップスとショーン・ゴーターも船に乗り込んで、マンチェスターに入港するというイベントをおこなった。マンチェスターシティーのロゴに船が描かれているから船を使ったのかもしれないが、実物大のガンダムがビールを持って街へ乗り込んだほうが、はるかにインパクトがあって良かったと思う。シティ・フットボール・グループのチームである横浜F・マリノスのホームタウン、横浜市にあるガンダムファクトリーから実物大のガンダムを借りることもできただろうに。 その他のスポーツ関係のニュース。今年、北極エリアの自転車レース「アークティック・レース・オブ・ノルウェー」に参戦した選手たちは、栄光とビールを目指して競い合った。2021年までは勝者にサーモン500㎏が贈られていたが、今年は「世界最北のブルワリー」であるノルウェーのマック社が創業150周年を記念してレースに協賛し、勝者にビール400リットルを寄贈した。今年の勝者はイスラエル・プレミアテック所属のアクセル・ジングルという選手で、彼はチームメイトとともに賞品のビールを飲み、残ったビールはマック社がフランスのリール市にあるチーム本部へと輸送し、スタッフや選手たちと分けあって飲むそうだ。ビールを飲むのもチームワークなのだ! 大西洋を挟んだ反対側では、エクアドルの生物工学者、ハビエル・カルバハルが古いオーク樽から採取した400年前の酵母を用い、当時のビールを再現した。これはラテンアメリカ最古のビールだという声もある。カルバハルにインタビューしたAFP通信によれば、彼がエクアドルの首都キトにあるフランシスコ修道会醸造所について知ったことが事の始まりらしい。この醸造所はベルギーのフランドル地方出身の僧侶により、1566年に創業している。歴史学者たちは、その僧侶が穀類をキトに持ち込み、ビールの原料として使ったのだろうと推測している。一方、酵母については、トウモロコシを原料とする地元の酒、チチャから拝借したのではないだろうか。じつは、カルバハルは醸造家系の出身で、今回の試みは神の思し召しだといえよう。 エクアドルからそう遠くないメキシコは、世界有数のビール輸出国だが、メキシコ北部は深刻な干ばつに悩まされている。事態があまりにも深刻化してきたため、ロペス・オブラドール大統領は記者会見を開き、大手ビールメーカーに対して操業停止と、状況が比較的良いメキシコ南部での生産へ移行するよう呼びかけた。残念なことに、南部への移行はビールの主要マーケットである米国から遠ざかることを意味している。価格がより一層上昇することにもなりそうだ。 モノの不足はいたるところで起きている。米国のブルワリーの中には、炭酸ガス不足のために夏のあいだ操業停止せざるを得なかったところもあった。報道によると、コロナによって物流が混乱し、供給量を減らしていたミシシッピ州の炭酸ガス業者が、今度は設備内で汚染が発覚し、さらに供給を絞らざるを得ない事態となった。炭酸ガスのせいで地球温暖化が進む中、炭酸ガスが不足するとは何という皮肉だろう。 夏になると蚊に悩まされる。この厄介者に対抗するため、クアーズ・ライトは「Coors Light Thirst Trap」という面白いガジェットを公開した。缶の上部に取り付けるだけで、おびき寄せられた蚊が缶に入ったら出られないようになっている。ビールを缶の中に少しだけ残しておき、この装置を缶の上部にパチンと留めるだけ。ヒトもビールにおびき寄せられるのだから、蚊が寄ってくるのもそんなに不思議なことではない。 7月初旬、コロラド州を本拠地とするニューベルジャンは、ビールをテーマにしたウォーターパーク「Voodoo Ranger IPA Action Park」の建設を計画していると発表した。水の代わりにビールを使った「X-treme Brew Flume(エクストリーム・ビールスライダー)」や、ビールを満たしたウェーブプール、中古の樽を使ったローラーコースターなどが計画に含まれていた。建設予定地はカリフォルニア州ナパ。カリフォルニアワインの一大生産地として知られているところである。すると一部のナパ住民から抗議の声が上がり、そのほかにもネット上で怒りのメッセージを投稿する者が出てきた。ところがやがて、ニューベルジャンの発表はジョークだったことが判明。しかし地元のワイン好きにこのジョークは通じず、彼らは不快感を覚えたようだ。 さあ、そろそろ今回のビール探検の旅も終わり。そして今年の冬にまた、この好奇心旺盛な生き物たちが何を企んでいるのか、一緒に探っていくことにしよう。 Mysterious music begins, punctuated by exotic bird calls, dripping water, and other sounds of a lush forest… The deep, dramatic voice of a narrator intones, “It is…

Beer Roundup (Summer 2022)

(Oktoberfest photo care of Munich)

「ライオンに、トラに、クマ! どうしよう!」
ーオズの魔法使い

新型コロナウイルスに、インフレ(物価上昇)に、戦争に、さぁどうしよう……大変な時代だ。このコラムではこれまでに、小惑星の衝突危機や...

Beer Roundup (Spring 2022)




「かつてそこには、故郷に続く道があった」
ーザ・ビートルズ

もう元には戻れない。物事は永久に変わった。新型コロナが私たちの生活を一変させたと思ったが、本誌を執筆中に欧州では戦争が起きている。これにより、私たちの生活がどのように変わっていくのかまだよくわからない...